来年もこうして

11月の文学フリマ東京で無料配布した『兎を見て冬吾を放つ』番外編の短編です。

ノベルジャムというイベントに出たのですが、そのチームメイト森田玲花さんと「来年もこうして」を書き出しにしてクリスマスの話を3000字以内でというルールで書いたものです。

兎を見て冬吾を放つ | えりか書房 (narakawaerica.xyz)

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 来年もこうして、クリスマスの朝にあんたを待っていられるかな。
 一昨日降った雪がまだ残る街の中は、冷蔵庫の中にいるみたいに底冷えがする。ショッピングモールのどでかいクリスマスツリーの下に腰かけながら、俺は昨日の夜のことを思い出していた。
 目の前で切られていくチーズケーキ。俺が甘いものが好きだって知ってから、年上の恋人は、ことあるごとにホールのケーキを買ってくる。
 まだ残ってるから、今日もうちに帰ったらケーキだろう。まあ、好きだからいいんだけど。どうせ食べるのは、俺たちふたりだけなのに。しかも修二さんは、別にケーキが好きでもないのにさ。俺を喜ばせることばっかり考えてるあのひとは、いっつも、自分の誕生日にだって俺の好きなものを買ってくるんだ。
 昨日はイブだったけど俺の仕事があったから、うちでケーキを食べただけ。だけどエッチなことはしたよね。だってほらクリスマスだから。普通、クリスマスのカップルって言ったらそうじゃん?
 初めてそういうことしてから、半年ちょっと? 相変わらず俺はガキくさくムチャしちゃうけど、修二さんはいつも「ばーか」って言って甘い笑顔で受け入れてくれるんだ。
 それで、ふと夜中に目が覚めたら、修二さんは優しい顔で俺を見ていた。あのひとは寝つきが悪い。夜型なんだよな。
「……修二さん」
 俺は手を伸ばして、優しく微笑むその口元をそっと撫でた。
「……ん?」
「すき」
 俺が言うと、修二さんはさらに口元を緩めて俺の頭を撫でてくれた。
「俺もだよ」
 そう言われると嬉しくなって、俺は頭を修二さんの首の窪みに押しつけた。そこが一番落ちつく。修二さんは俺が眠りに落ちるまでずっと頭を撫でてくれて、気づいたら朝だった。
 それで今日はさ、昨日の代わり。一緒に住んでんのに、わざわざ外で待ち合わせしてんの。
 なんかちょっと用事があるんだって。
 向かいの横断歩道で、信号待ちをしている姿が目に止まった。寒いんだろう、肩を竦めて厳しい顔をしていたけど、俺に気づくと、眼鏡の向こうの表情を緩ませて笑ってくれる。
 その姿を見るだけで、俺の心臓はきゅーんとしてドキドキが止まらない。好きだ。好き。大好き。
 だけど。来年も、あんたは俺のそばにいてくれるのかな。

 恋人が横断歩道の向こうのクリスマスツリーの下で、ダウンジャケットとマフラーに埋もれて座っている。もともときつい顔をしているが、不機嫌そうな顔は寒さのせいか。十一時でいいって言ったのに。早く来すぎだ。
 そんな表情が、途端にやわらかくなった。俺に気づいたんだ。全力で好意が伝わってくる、こいつの笑顔はいつもかわいい。
「待たせたな。じゃ行こうか」
 喫茶店でのんびりモーニングをしてしばらくゲームセンターで遊んで、それからふたりで映画を観た。単純なヒーロー映画。冬吾はアクションが派手なわかりやすい話の方が好きなんだ。
 どうせ最後に地球を救ってヒーローとヒロインがキスして終わりなんだろうと思っていると、手の甲に冬吾の指の感触があった。映画に集中しているのかと思ったら、どうやら暗闇に紛れて手を握るつもりらしい。
 まあいいか。暗いし。
 掌を裏返して指先で冬吾の掌に触れてやる。しばらく触れていると、ぎゅっと握り込まれた。

「あそこであいつが来るとは思わなかったよなー」
「うん……」
 隣を歩く、冬吾の反応がいまいちだ。いつもだったら映画を観た後は、うるさいくらい感想を話していることが多いのに。
 ちらりと隣を見ると、さっと視線を逸らされる。
「えーとあの、あっち行こう、あんま人のいないとこ。混んでるし」
 冬吾が口元に当てた指は落ちつかなげにいったりきたりしている。
 あーこいつ、キスしたがってるんだな。
 そのしぐさをみて俺は突然合点がいった。さっきからあれだ。こいつは一生懸命雰囲気のいい、人気のないところを探してるんだ。
 思わず口元に笑みがこぼれる。どうせうちに帰ったらいくらでもできるのに。この、クリスマスのデートだっていうのにこだわっているのか。かわいいな。頑張れ、若者。
「屋上行くか。寒いし、そんなに人いないだろ」
 かわいそうなので助け船を出してやる。ここのショッピングモールの屋上は、サッカー場しかないはずだ。サッカーの試合でもやっていなければ、そんなに来るひともいないだろう。
 視線が合わないまま屋上までエレベーターで昇ると、案の定そこには誰もいなかった。ビルの谷間で大した景色も見れないが、それでも俺はぼんやりと下を眺める。
「事務所よりはマシな景色かな」
 景色なんかまったく目に入っていないような恋人に話しかけると、両手を握りしめられる。
「修二さん……」
 そっと冬吾の顔が近づいてきて、俺はようやく目を閉じた。俺に触れる唇は、すっかり冷えてカサカサだ。あとでうちに帰ったら、なんか塗ってやらなくちゃ。
 丁寧にキスをした唇が離れていくのを確認すると、俺はそっと目を開けた。
「……修二さん。来年も、さ」
 すぐ近くで俺を見つめる冬吾の瞳が揺れた。
「ん?」
 俺がその目を見つめ返すと、冬吾は不安げに黙ってしまう。何を考えているんだか。おまえが不安がることなんて何ひとつないのに。
「ほら、クリスマスプレゼント」
 俺はジャケットの内ポケットにしまっておいた、白い封筒を手渡した。朝このせいで冬吾を待たせてしまったんだが。封筒を開けた彼はきょとんとした顔で俺を見た。
「なにこれ?」
 俺はそんな彼に微笑んだ。我ながらいいアイデアで、ちょっとニヤニヤしてしまうのは許してほしい。
「飛行機のチケット。冬吾、来年の春には一緒に台湾に行こう」
「え、でも俺、パスポートとかないし……」
「今からパスポート写真撮りに行くぞ」
「え?」
 驚く顔も悪くはないが、そろそろ笑ってほしいかな。
「飛行機乗ってみたくないか?」
「乗ってみたいけど!」
 俺は相変わらず笑顔の欠片もない冬吾の頰をそっと撫でる。その頰に小さくキスをして、優しく耳元に囁いた。
「喜んでほしかったんだけどな」
「喜んでる喜んでる! びっくりしてんの!」
「色々うまいもん食えるらしいぞ。楽しみにしとけ」
 そう言いながら冬吾の体に腕を回すと、ぎゅっと抱きしめ返された。
「うん! めっちゃ楽しみにする! ありがとう!」
 恋人の声が弾んできて、俺は心からほっとする。俺はいつでもおまえに喜んでほしいんだ。
 今俺は幸せにしたいやつとこうやって、お互いの呼吸もわかるくらいにそばにいる。そうしてまだ見ぬ春の約束をする。それはとっても幸福で。
「なあ冬吾」
「ん?」
「来年もこうして、一緒にクリスマスを過ごそうな」
 回された腕の力が強くなる。
「うん」
 去年は今年のクリスマスをこんなふうに過ごしているなんて、まったく考えもしなかったけど。こんな冬も悪くない。できたらずっと、続いてほしい。
 だから来年もこうして、来年も再来年もこうして。たくさんの未来の約束を、おまえに。

Merry Christmas to You!

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